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地方にお金が回らない (2004年3月17日配信)

■■■  地方にお金が回らない  ■■■

1. 現状
現代は、明治維新、第二次世界大戦につぐ第三の大改革期と位置づけられているが、先の大改革期に倣うと、概ね事が起こり様々な変化への対応力のなさから 13~14年で転換期を迎え、その後10年で時代の大変化に対応してあらゆる分野で構造改革を成し遂げ、新たな時代を迎えているようである。

現代もこれに倣うと、事の起こりといえるソビエトの崩壊(ベルリンの壁崩壊)から13~14年、いよいよ転換期を迎えていることになる。そのような目で見ると小泉内閣 の構造改革宣言こそが新しい時代への第一歩であったといえるのではないかと思う。 これに呼応するように、いわゆる大手企業は、構造改革に着手し不採算部門からの撤退と成長部門への重点投資、下請企業との関係見直しに伴うアジア諸国、特に中国への工場進出、さらには企業内IT化の促進等により、急速に収益率の高い企業体に構造改革をなし遂げた。
こうしたことと、世界的な景気の好調とが相俟って今日の大手企業の景気回復につながっているのである。

しかし、その過程で下請関係を解除された中小零細企業、解雇を通告された従業員等が地方には多数存在することも現実の姿である。
こういう現状に対し、従来の循環経済論的に、「地方経済の景気回復には、今しばらく時間がかかる。」という方々がおられるが、私は、そうは思わない。今日の地方経済の疲弊は構造的なものに起因していると思う。まさしく、世の中の大変化に対応できないために、収益が上がらず地域にお金が回ら なくなっているのだと思う。それだけに、地方経済を支える各企業が、それぞれ構造改革をなし遂げない限り、地方経済の回復はないと思う。今、地方で元気があるのは、独自の技術・製品をもち、独力で闘ってゆくだけの競争力がある企業だけと言って過言ではない。地方経済の大半を構成する産業(以下、従来型産業という)、すなわち下請型中小製造業、地場産業、建設業、農林水産業、そしてそれらを基盤とする商業のすべてが不況に喘いでいる。

大手企業主導による景気が少し回復したとしても、そのことによって下請型中小製造業の仕事が元通りになることも、中国はじめアジア諸国とすさまじい競争をしている地場産業や農林水産業が元通りになることもない。従来の循環経済論的に地方経済の景気が回復することはないのである。

2. 今後の姿

では、今後地方経済はどのように変化してゆくと見るべきなのか、非常に難しい問題であるが、以下の図表を基に姿を描いてみる。 図1から読みとれることは、今後日本が他の先進国のような産業構造になってゆく として比較すると、第一次産業は1~3%、実数ベースでは65~200万人の減少、第二次産業は5~9パーセント、実数ベースでは320万~580万人の減少、そして第三次産業は8~11%、実数ベースでは520万~700万人の増加が見込まれる。

(注)第3次産業に該当するものについては、日本(2000年)、 アメリカ (2000年)、 フランス(1998年)、 イギリス(1998年)それぞれの基準に合わせて調整

表1からは、これも今後日本が他の先進国のようになってゆくとしてみると地方経済の柱の一つである建設業において3%程度、実数ベースで200万人程度過剰といえる。また公務部門やサービス業が10%以上、実数ベースでは650万人以上増加す るといえる。即ち大変なサービス経済化が進むということになる。

表2 は、政府の530万人雇用創出計画の内容であり、表3 は、日本経済団体連合会の予測する2010年の就業構造である。

以上のことから、地方経済を構成する農林水産業も下請型中小製造業も地場産業もそして建設業も従事者は減少してゆき、一方医療・福祉サービスや個人向けのサービス、さらには事務所向けのサービスなどの従事者が増加する社会になってゆくと推測される。

ただ、このような社会に至るには、未だ最低でも数年(相当の年数)を要するわけであり、また当然のことだが、従来型産業が全てなくなるわけではない。

そこで現在の地方経済にとって最も重要なことは、これら従来型産業が一刻も早く構造改革を進め、次の時代に適合する体質になって新たに地方経済の一翼を担うようになることである。しかし、現状は改革のスピードがあがらず、各企業の疲弊は大きく、地方経済に深刻な影響を与えているのである。

サービス経済化の進展と共に、これら従来型産業の再生こそが地方経済の回復にとって非常に重要である。それだけに政府として、従来型産業の再生について意志を明確にし、全力をあげて対策をとるべきである。

3. 従来型産業対策

従来型産業の再生策として第一になすべきことは、業界再編とそれに伴う転廃業支援である。
従来どおりでは成り立たないことが明白でありながら、過当競争による自然淘汰を俟っているのが現状である。

例えば建設業のように、今後公共・民間共に右肩上がりの発注を見込めないなかでは、業界の過剰な状態を改善しないかぎり、収益率の高い企業に再生することはないのである。

同様のことは他の従来型産業にもいえ、改革のスピードを上げるためにも業界再編を誘導する手立てが必要である。
税制・金融等による再編支援策や新規事業への転業誘導施策等が必要である。

再生策の第二は、第一策を前提としつつ、様々な活性化策を講じることである。
現在、政府の地域再生本部においても全省庁あげての取り組みがなされているが、これだけ難しい状況の中で特効薬があるわけではない。様々な知恵や工夫を持ち寄って活性化をはかってゆかねばならない。

以下、十分ではないが地域にお金が回る方法について数点指摘してみる。

(1)国は、建設業者ランクを上からA、B、C、Dに分類しているが、私の地元和歌山の最高ランク企業でもCランクにしかならず、発注金額は土木、建築工事共に3億円未満である。
しかし、同じ企業が和歌山県内では土木工事では5億円まで、建築工事では10億円までの工事に参加できている。
即ち、和歌山県内では施工能力があると認められながら、国発注の大型工事には入札参加すらできない状況であり、改善されるべきである。

(2)公共工事の入札において地域によっては、目先の工事を確保するために適正利潤を無視した価格での落札や、最低制限価格に入札参加者が横並びとなり抽選により落札業者が決定されるようなこともおこっている。
公共事業は、税を使うだけに無駄のないものでなければならないことは当然であるが、一方適正な価格で落札され、適正な利潤を確保し、適正な工事を完成することによって、企業、従業員、下請や資材など関連業者が潤い地域経済の活性化につながるものでもなければならない。
入札等における不正行為の排除や透明性の確保をはかりつつ、年中バーゲンセールをしているような現状の過当競争を是正し、関係業者が健全な地域経済の担い手となるよう対策を立ててゆくべきである。このためには、厳しい能力審査とその厳正な適用などが求められる。

(3)農山漁村の活性化は第一に需要の拡大であり、いわゆる攻めの農政によって、国内外を問わず需要の拡大をはかるべきである。国内では安全安心を求める消費者に地産地消を促す場の提供や産地直送の普及など、さらには発展著しい中食や外食産業との連携などの対策がとられるべきである。
また最近の中国、アジア諸国での個人所得向上をうけ、輸出の拡大をはかるべきである。特に出荷時期が一時に重なる産物にとっては国内供給量の平準化にもなり価格安定につながるところであり、マーケティングなど積極的な対応がなされるべきである。

(4)農林水産業が単なる市場経済論だけでは成り立たないことは論を俟たないところである。一方農林水産業が担うべき役割は大別して、食糧安全保障の確保と多面的機能の保全の二面を指摘できる。
前者にあっては、担い手たる主業農家にその役割を担っていただき、後者にあっては、地域としてその役割を担っていただかざるをえないが、その対価として諸外国でも実施されている直接支払い制度を導入し、各々の担い手に交付されるべきである。 そして後者にあっては県或いは市町村が実情に則して農林水産業の振興と多面的機能 の十分な発揮のために活用し、そのことによって農山漁村の基盤強化の一助とすべきである。

(5)最新の科学技術の成果と従来型産業とを結びつける必要がある。すなわち、最新の科学技術の隠れたシーズと地域の産業の隠れたニーズをマッチングさせ、新たな産業を起こしたり、既存産業を再活性化させたりできるよう支援を行うべきである。
この場合特に大切なことは、成果と企業を結びつけるコーディネーターの役割であり、ここに十分配慮した支援を行うべきである。さらに、地域に密着した産業の高度化や新製品開発には地域の試験研究機関や支援機関の充実・活性化が必要である。

(6)最近デザインの重要性が認識されているが、残念ながら日本では、特に地方の中小企業ではデザイナーが十分に活用されているとはいえない。それというのもデザイナー、特に工業デザイナーの多くは企業内デザイナーとして活動しており、地方の企業との接触は全くない状況である。
デザインの重要性が認識され、低コスト商品に対抗するため、高付加価値化が求められる状況の中で、デザイナーをフル活用することは非常に重要である。そこで、デザインコンペ、デザイナーズフリーマーケット、デザイナーの実地研修など、デザイナーと地域産業との接触を深め、デザイナーとデザインを共に活性化させるための支援策を積極的に講じるべきである。

(7)情報化のための基盤整備は必須であるが、地方には携帯電話の通じない地域が沢山ある一方、都会ではIT化は一段と進み、携帯電話のみならず、情報化全般にわたり格差は拡大している。電気や固定電話事業者と違い、法律で提供を義務づけられていない情報通信事業者が、採算がとれる地域以外参入しないためであり、これを放置することはできない。そこで有限な国民共有の財産である電波の周波数を低廉な電波利用料で占有している企業から別途徴収して情報格差是正のための基金をつくり、地方の情報基盤整備を促進する必要がある。
4. まとめ

以上、地方経済の現状と対策を検討したが、紙数の都合で十分に体系的に論じられないことは当然としても、具体的解決策の提示が非常に難しいことを改めて痛感した。

また、地方経済の大本は、中央と地方のあり方、すなわち東京一極集中に大きく関わる問題でもあり、地方単独で解決策を見出せるほど安易な課題ではないことも改めて痛感した次第である。

それだけに、地方はどうあるべきか、日本の今後の姿はどうあるべきかなど根本課題の検討は深めつつも、当面する喫緊の課題として、地方における従来型産業の再生に取組むことが地方経済の活性化のために不可欠である。さらに長引く低迷によって疲弊の度は深刻であるだけに改革のスピードアップが求められているところであり、政府あげて対応すべきであることを強く主張したい。

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